<きっかけ>


名画の表紙を子供に見せたい
デアゴスティーニ社へのプレゼンで実現いたしました。

きっかけは30年近くも前でした。
TV・CMでおなじみのデアゴスティーニ社殿が出版していた「グレートアーティスト」というパートワークの人気の週刊誌。
毎号 表紙の同じ位置に同じ大きさで名画が印刷されていました。
この雑誌を飾ることができないかと考えたのがきっかけでした。
目的は「幼い子に世界、日本の名画を何気ない日常の中で触れさせたい」でした。
現在でも同様ですが、安価に飾ることのできる名画って意外とないですね。
何気なく名画を見せるというのはとても効果的です。しかも週代わりで。
子供はウルトラマンも、ピカソも、仮面ライダーもマティスも同じ視線で見て感じ、評価します。
この家庭向きの工作から商品としてのプロトタイプ製作を繰り返し、デアゴスティーニ社殿へプレゼンテーションしたのが30年近くも前の話です。

グレートアーティストをその場で額に入れて見せたときスタッフ全員が目を見張り、喜んだことを忘れません。
「観賞用としての表紙の美しさは関係者であっても気付かない」と確信しました。
量産金型を製作し量産いたしましたが流通コスト、出版業界の流通システムなどで1000セットで終了いたしました。

他誌への展開の模索


様々な出版物で試作をし、多くの企業にプレゼンし、どこの企業でも評価は決して悪くありませんでした。
機関車やファッションなど強烈な個性を持つ雑誌ほど魅力的になります。
各誌の表紙で使われているイメージ写真はどれも素晴らしく、手に入れたくても手に入るものではないものがほとんどでした。

ただそのたびに違う仕様で製作し金型コストが派生することに大きな無駄を感じていました。
「何とか汎用性のあるものにならないか」を考え続けていました。


■1990年代に製作した試作品の一部。出版社へ提示したものもあればしていないのもあります。
流通と販売ルート確立が困難でした。

A4サイズの開発


2000年代、A4サイズの開発がはじまりましたが知恵の輪同様、現在の結果を見れば簡単ですが以下の4つの課題のクリアーはとても難しいものでした。
1 縦・横使用できること。
2 1枚の紙も、厚みある雑誌も入ること。
3 子供でも簡単にできること。
4 同じ構造、部品を共有化して将来他サイズへの製作転用が可能なこと。

さらに商品の印象として
1 マット(額装時に入れる2mmから5mmほどの厚紙)効果のあること。
安価な額縁とそうでない額縁の違いにマットの有無があります。マット製作は紙という比較的扱いにくい素材であり手作業のためマットを額縁の中に入れるだけで価格が上がります。薄い1枚の紙では視覚的クオリティーが落ちます。モーメント フレームではそれを印刷の錯覚を利用してマット効果を表現いたしました。

️■2000年頃のプロトタイプ 初めて自重で用紙を押さえつけることに着目した試作品でした。
しかし中に入れる厚さも限定され、縦横も2種類必要でした。また使いにくい構造で子供には難しく商品には程遠いものでした。

専  念

多くのデザイン業務をこなしながらの開発には限界を感じ、他の業務をほぼ中止し、約2年半、山に篭っているかのように商品開発に没頭してきました。
単純な構成のため一ヶ所変更すると全体に影響を及ぼし、数ヶ月前まで戻ってしまう「あの3ヶ月間は無駄だった」を繰り返していました。
試作の数は小さな仕組みを含めると100を越え、これからも進化を続けていくと思います。

️■A4サイズの正規のプロトタイプ 4つの課題はクリアーしましたが、縦横変更時に壁から一度下ろさなければならないことが納得いかない部分でした。

接着剤と両面テープ


接着剤への信頼、使用もひとつの転機となりました。
通常、工業製品のデザインはビス類を隠すことをまず考えます。
パーツ数が多い商品ですと可能になるのですが今回のような単純かつ最小パーツ構成の商品ではそれがとても困難になります。
総重量は12mmの雑誌も含めてわずか2.1kgしかありませんが5倍の11kgは耐えなければならない。
しかもシルク印刷した上に接着をする。
接着剤メーカー殿とインキメーカー殿のご協力、さらに試験場でのテストを複数の形状、数種類の接着剤で繰り返し行いました。
結果、接着剤はパーツが剥離するまで120kg~791kgまでの加重に耐えることができました。
最も力のかかるフック部はなんと接着面は剥がれず10mm厚のアクリルがちぎれるという強度を示しました。
これだけの十分な数値を得ましたが、更に印刷方法と素材に工夫を凝らし接着ではなく溶着を採用いたしました。




今後の課題
量産性を高めること。
アクリルのカット、シルク印刷は半手仕事であるため量産性に劣ります。
6回のシルク印刷は乾燥工程にも時間を要しコストにアップに繋がります。
その反面、アクリルの高級感や透明感が演出でき、かつ様々なバリエーション展開が可能になり将来性を見込めます。
この手法は一つの結論としてあると思いますが、他の方法も模索していく必要があります。
※初期のプロトタイプは本体を成型品として検討していました。
コストダウンにはなりますが、アクリルに比べ質感に劣るため採用しませんでした。